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【2024/04/24 13:10 】 |
西澤保彦『依存』

西澤氏は、強烈なシリーズキャラクターをたくさん持っていますが、私はこの『依存』を含む「タック&タカチ」シリーズが特に好きです。
「タック&タカチ」シリーズのメインキャラクターは4人の大学生です。
 まずはメイン探偵であるタック。飄々として人当たりの良い穏やかな青年ですが、物欲が異常に薄く、本と酒にのみこだわります。
 ボアン先輩♂は大学の牢名主。休学と留年を繰り返し、10年は安槻大学にいると噂されています。寂しがり屋のお調子者で、毎日のように後輩を集めて宴会しています。ここまで極端でなくても、いますよね、どこの大学にもこういう長老的存在。
 ウサコは、小柄でお下げの似合うロリータ風キャラです。無邪気で陽気な性格ですが、専攻が犯罪心理学ってあたりが実は深いかも?後に刑事と学生結婚します。
 そしてタカチ。気合いみなぎる神秘的なカリスマ美女です。
 この4人が、安槻大学とその周辺で遭遇する事件と、その成長が描かれています。

 このシリーズ、出版年代も形態も複雑で、読破には少々苦労します。作品を物語世界内の時系列で整理すると下記のようになります。(年は出版年)

①『彼女が死んだ夜』カドカワノベルス1996
②『麦酒の家の冒険』講談社ノベルス1996
③『仔羊たちの聖夜』カドカワエンタテイメント1997
④『スコッチ・ゲーム』同上1998
⑤『依存』幻冬舎2000
⑥『解体諸因』講談社ノベルス1995(短編集)
⑦『謎亭論処』祥伝社ノンノベル2001(短編集)


 シリーズの始まりは短編集⑦『解体諸因』です。バラバラ殺人をテーマにしたギャグパズラー的?連作集で、主要な登場人物、タック・タカチ・ボアン先輩・ウサコはこの本から登場していますが、それぞれの短編の中で、彼らは大学生だったり、すでに卒業して社会人だったり、時系列はさまざまです。最新短編集⑧『謎亭論処』にも同じく色々な年代の彼等が登場しています。
 一方、①~⑤の長編には、いずれも彼らが安槻大学在学中の事件が、時系列順に描かれています。今後引き続き、彼らの卒業や別離、就職や結婚にまつわる長編も書かれる予定だそうです。
 私が最初に手を出したのは②『麦酒の家の冒険』でした。とっぴょうしもない設定でその筋(って何の筋)では有名な作品ですが、何よりタイトルに惹かれてw 飲兵衛としては、ぜひ押さえておくべき作品かと♪
 タック・タカチ・ボアン先輩・ウサコのいつもの4人は、旅行に来ていた高原で車のガス欠によりプチ遭難し、妙な無人の別荘に不法侵入する羽目になります。その別荘は引っ越し後のように家具がなく、一見空き家のようなのに、きちんとカバーが掛かったベッドと、冷蔵庫に大量のヱビスビール(ヱビスってのがいいなっと)だけがありました。非常に不審に思いつつも、なにしろ遭難中ですから、彼等は迷わずその冷た~いビールを牛飲します(この状況下では私も絶対飲むだろなと)。「あ~旨っ、でもさ、この別荘は何?このビールは何なの?」…多くの疑問を抱えて、4人は無事下山します。そして「麦酒の家」の謎について、下宿に戻ってからも、性懲りもなく宴会しながら議論を戦わせます。
 探偵が、推理のための情報を調査によって収集せず、調査せずとも入手し得る情報…依頼人の報告とか、又聞き、報道、事件現場に居合わせた等…のみを材料に、純粋理論だけで推理を進めるミステリ作品を、マニア用語?では「安楽椅子探偵物」と呼びます。ミステリ発祥の時代からある伝統的な形式ですが、説明し始めると非常~に長くなるので、また今度。
 このシリーズ全体がその安楽椅子探偵形式を踏襲していて、大概4人が宴会しながら一定の結論に達するのですが、その理屈っぽい、いかにも大学生くさい、脇道逸れまくりの議論がとても面白い。そうそう、大学時代って、下らないネタで夜通し飲んでくっちゃべってたっけ、元気だったなあ、肝臓も丈夫だったしなあ、的ノスタルジーも少々。
 この4人は、非常な飲兵衛です。特にタックとボアン先輩ってば、いくら何でもこんなに一晩に飲めないよ~、とこの私に思わせるくらい。なにしろ
「日本ミステリ史上屈指の作中酒量を誇るシリーズ」。(『謎亭論拠』帯より)。 多くの作品が、出だしは「これってバカミス?」と思うほどコメディタッチで、会話中心なので、理屈っぽいけど読みやすいし、人物は可愛いしキャラ萌え系だし、軽い読書感です。しかし、油断してさくさく読んでいると、どの作品もラストに、どかん、とショックがやってきます。人間の悪意や、ダークサイドとは、これほど暗く深いものか、と。作品全体は明るく楽しいので、衝撃は余計に大きい。作中人物達も、読者以上に衝撃を受け、打ちひしがれ、そして成長していくのです。
 そのラストのショックは、シリーズが進むにつれ、段々大きくなります。①~③は4人が関わっているとはいえ、彼等自身の事件ではありませんが、④『スコッチ・ゲーム』はタカチの、⑤『依存』はタックの、それぞれの闇が描かれているから、ということもあるでしょう。しかし、それだけでなく作者の意図も感じます。読みやすく、読後感もさほど暗くない軽めの作品によって、読者をシリーズ世界に引きずり込み、どっぷり浸かったのを見計らって、そのままずぶずぶと深みに連れて行く、という…。
『依存』のテーマは、様々な依存症です。良く耳にするアルコールや買い物等の他、ストーカーも依存症のひとつであると西澤氏は解釈しているようです。自分はもちろん、周囲の人まで不幸にすると解っていながら、その物事に執着し続けてしまう依存症という病…。
 語り手はウサコです。タックの指導教授宅の新築パーティに、いつもの4人+数名の女子学生が招待されるところから話が始まります。時期を同じくして、招待メンバーの女子学生たちが、同棲相手から乱暴されそうになったり、ストーカーにつけまわされる、といった事件が起きます。それらを4人が、議論と推理と長老ボアン先輩の人脈で始末し、幸いにも予定メンバー全員で教授宅を訪問することが出来ました。…しかし、教授宅で、最大の事件が待っていたのです。
 ラストは、シリーズ随一の衝撃でした。一瞬手が震えるほど。
 それでも、次の瞬間、最上の救いがやってきて、場面転換のしたかのように光が差し伸べます。大きな衝撃を受けたはずなのに、読了時には、無意識に口元が緩んでいました。
 シリーズ作品の中で、今のところ『依存』が一番好きです。もちろん今後、これを上回る作品を発表して頂くことを、西澤先生には切にお願い申し上げます。激しく期待。

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【2007/04/23 09:15 】 | 国内ミステリ | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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